◎ 新・文明観へ地球外生命追う
ローエル協会設立に寄せて(寄稿)
デイビッド・シュトラウス米カラマズー大歴史学教授
「火星には運河がある」−。運河があるからには知的な生命がいるはずだ。今
から約百年前、そんな考えを世界に広めたのが、米ボストンの大富豪で、天文学
者のパーシバル・ローエルである。この説を唱える以前、ローエルは日本や韓国
など東アジアの研究に情熱を傾けている。火星とアジアを結びつけたものは何な
のだろうか。彼はなぜ能登にやって来たのか。
7月8日、日本ローエル協会設立を記念して、金沢市で講演したデイビッド・
シュトラウス米カラマズー大歴史学教授(協会員)に、ローエル研究十年の成果
を基に、その謎について語ってもらった−。
● 今なぜ「ローエル」か
百十二年前に能登を訪れた米天文学者、パーシバル・ローエルは、おそらく、
最初にして最後のルネサンスの精神を堅持した視野の広い国際人と言える。彼
は、アメリカ人に東アジア文化の真髄を教え、地球外生命を追求するため、天文
台を設立する。彼の才能は、ローエル協会が日本に設立され、再び世界的に脚光
を浴びるようになり、今後広く世界に知られるようになると思う。すなわち、彼
が訪れた日本およびそのほかの国々の研究者に、ローエルが果たした歴史的な役
割を更に検証する環境が整ったと言える。
ところで、この二十一世紀の初頭に「何故ローエルに関心を示すのか?」と自
問する時、彼が東アジアで経験し、達成した成果、未知の宇宙に目を向けた意
欲、さらには彼の一族がアメリカ社会において果たしてきた役割を検証すること
によって、その答えがおのずから浮き彫りになると私は考える。
● 人類進化と火星人
詳しくは、今年一月に出版した私の研究書「パーシバル・ローエル −ボスト
ン知識人の文化と科学」にゆずるが、ローエルによる日本および火星に関する著
書は、この地球に生きるいろいろな人類の進化のプロセスを宇宙にまで広げて統
一的に解き明かすことを意図したと言える。彼の火星に関する研究は、おそら
く、地球に生きる人類よりさらに進化し優れた生き物がほかの惑星に存在するこ
とを確認することにあった。ローエルは、日本などの東アジアに関する研究によ
って、この地球に存在するさまざまな文化を持つ人類の進化を検証し、その成果
を基に彼が本来解明しようとした火星の探求をより確かなものにしようとしたに
違いない。
彼の著書の一つに、宇宙体系における惑星の起源がある。何万年もの歳月の過
程で、生物はどのように進化し、生き延びてきたかを追及、検証し、そこでの生
存競争の原因を検証している。彼は、科学的手法に基づき、地球上の進化も、宇
宙での進化も同様にいろいろな段階の文明を開花させるということを突き止める
ことに専念していたことがうかがえる。
望遠鏡を使っての火星の科学的な観測と日本を理解、検証することとは手法の
道具こそ違うが、同じ視点からのものであった。すなわち、宇宙のいろいろな惑
星の出来事も地球上の社会的な進化の過程も同じものであるという地球文明観を
ローエルはいだいていたのである。
● 挑戦と活力ある人生
これまでに述べてきたことから、私は大筋として彼の哲学の本質をあぶり出し
たと考えている。ローエルが果たした種々の功績について、私は日本で創立され
たロ−エル協会の同僚の方々と、収集した多くの貴重な文献をも含めて検証する
ことが今後も必要であると考えている。ローエルが友人や同僚に宛てた数々の手
紙や書簡、伝記などにより彼の考えが伺えるからである。彼の助手であった宮岡
哲冶郎や知人の増島六一郎とローエルとの関わりにも焦点を当てれば、ロ−エル
の思考の本質により深く迫れるだろう。
その場合、私が出版した評伝が、ローエル研究者への今後の道しるべになれば
と願う。地球外生命の探求など、ローエルの「挑戦と活力ある生き方」の解明
は、現代文明にも多くの示唆を与えると期待している。
(訳 米国国際経済政策財団理事長代理兼事務局長、片岡佑介氏。できるだけ教
授の意を汲み取り、記念講演も参考に和訳した)
−−2001年7月16日付北國新聞